標準模型を越える素粒子模型の構築は現在の 素粒子物理学の大きな夢の一つです。 私は素粒子の標準模型を越える理論的可能性を、標準模型が内包する様々な問題点を 併せ考えることにより見いだそうと試みています。 これまでの中心的研究内容は大きく次の2つに分けることができます。
一つは、 超弦理論や超重力理論の低エネルギー有効理論として標準模型を定式化しようと いう試みです。「標準模型の中では答えることのできない理論的課題」に焦点を当て、 このような枠組みの中でそれらを統一的に解決する可能性について検討すること、また、 そのような模型における現象論的特性を検討すること、これらを通して、 標準模型を越える素粒子模型の持つ特徴を見出すことなどを大きな柱として位置づけ 研究を進めてきました。
他の一つは、近年ニュートリノ振動実験や宇宙観測を 通して明らかにされてきたニュートリノの質量の存在、通常の物質の6倍近くの量が 予想される暗黒物質の存在、 さらには古くから謎とされてきた宇宙に存在するバリオン数の非対称性の問題に 関わる研究です。これらはすべて、標準模型の枠内では説明することのできない実験・ 観測事実であり、標準模型の拡張を要求するものと考えられます。そこで、 「標準模型を越える素粒子模型はこれら3つの問題を同時に矛盾することなく説明できる 枠組みとなっていなければならない」という考えに基づき拡張模型の構築と その現象論的特徴について考察を進めています。
最近は、この2つ目の課題を中心とした研究に取り組んでいます。 この研究の中では特に、小さなニュートリノ質量生成と宇宙の暗黒物質の存在が共通の 起源を持つという興味深い可能性をもたらす拡張模型に注目し、模型の構成とその現象論的 特徴の解明、さらには、そのような模型におけるバリオン数生成機構の考察などに 集中的に取り組んでいます。このような研究を進める上で、インフレーション宇宙や 再加熱問題などの宇宙論的課題も視野に入れつつ検討を進めています。